セルフ・ライヴ・レポート

THE FLUS FIRST GIG 〜BUCHOU NEVER DIE〜

TEXT : SCREAMO BUCHOU

 

「今世紀最大の内弁慶」

誰が言ったか知らないが、それが部長の通り名である。
身内には皇帝の如き立ち振る舞いをし、
一歩外を出に出れば、緊張しいで挙動不審(職務質問2回受けた実績あり)な変態へと変貌する。

 

「そうだな。外にいる時のオレはまるでリスだな」

 

そんな小心者で根暗で卑怯でモンスターな部長は、去る9月22日、新大久保のClub Voiceにて約10年振りにライヴを敢行した。
今まで、THE FULSを含め4つのバンドを渡り歩いてきた流浪のベーシストではあったが、不思議と生演奏の機会には恵まれなかった。
ティーンの頃から何かしらバンドをやり続けていた割に圧倒的なキャリア不足。 ライヴ前夜、この現実が重くのしかかる。

故郷の大先輩・津田恒美さんの「弱気は最大の敵」という言葉を肝に銘じるも、どうにも緊張がほぐれない。
仕方がないので、次の手段としてトンカツを食いに出掛けた。無論、「敵に勝つ!」に掛けての行動である。
古臭いにも程がある手法だが、何もやらないよりマシである。が、これは何の意味もなさなかったことを翌日思い知るとこになる。
帰宅後、緊張のあまり、あえてベースに触らないという境地に至った。「わしは触りとうない!」と本能が拒否していたのである。
夜も眠れず、カート・ラッセル主演のよくわからないミッドナイトムービーを観ながら時間を潰す。
同じく眠れなかった10年前の夜は、ナイナイのオールナイトニッポンを聴いていた。結局就寝したのは4時。歴史は繰り返される。

僅かな睡眠から目覚めると、決戦の日の朝日が部長をギラギラと照らしていた。遂にこの日が来てしまったのだ。
11時から最後の仕上げの練習を行うので、そそくさと身支度をし、新宿へと向かった。
新宿の某スタジオに集結したメンバー達。リーダーのおばりょう氏(ギター)は余裕の表情。「いや全然」みたいな。腹立つ。
場慣れしているアンチェイン氏(ドラム)も、緊張している様子は微塵も感じられない。これが王者の余裕か。
ケンペス氏(ヴォーカル)は緊張のあまり、昨夜実家に電話したそうだ。流石にその選択肢は無かったわ。
そして部長、もう緊張の極致である。朝からずっと心拍数が早いままだ。視線は定まらず、表情は虚ろ。おじいちゃん、ワシもそっちに行くけぇの。

しかし、テンパりまくっている部長の姿は、他のメンバーの緊張を解すのに一役買ったようである。どうせ部長はそういう役回りだ。
肝心の最終練習では、普段ミスしないチョロいフレーズでミスを犯したりと、更に不安を拡大させるだけの2時間を過ごした。
この時点でもう部長は石仮面(ジョジョの奇妙な冒険に出てくる、人間を辞めるのに必須の道具)が欲しいと、のたまい出す始末。
依然として緊張は右肩上がり。気弱な体に生んでくれた母に感謝したい。

 

「人間って本当にアメイジングだよね」

 

練習時間もあっという間に終わり、バンドは決戦の地・新大久保へと歩を進めた。
途中、無理矢理にでもテンションを上げるため、「今からはオレのことをアンディと呼ぶように」とお願いしたのだが、
一度おばりょうが「アンディ」と言ったきり、いつものニックネームで呼ばれ続けた。こいつら酷すぎる。

 

「皆、このオレを気遣う余裕すらなかったようだ。泣いてなどいない」

 

今宵の戦場・Club Voiceに一番乗りで到着したThe Flus御一行。ステージとフロアの近さに戦慄が走る。
時刻は14時過ぎ、食事を取りに一度会場を出る。辺りにはスパイシーな料理を売りにした店ばかり。
「胃腸がやられる」ということで、満場一致でここはパスしファーストフード店に行くことにした。
やたら回転の悪い店でバーガーを購入。
ケンペスの会計が終わるのを外で待っていると、アンチェインから「鼻毛が出てるよ」と驚愕のツッコミが入った。

 

「あれは出してたんだ」

 

再び会場に戻り、隅っこでバーガーを頬張るが、どうにも食が進まない。嘗て「永遠の飢餓児」と呼ばれた部長の姿は、最早そこにはなかった。
結局、ポテトに至ってはオールお残しという状態で食事を終えた。そして、ぞくぞくと到着する今宵の競演者達。緊張感は俄然高まる。
「本番までもう2時間…」「いや執行猶予はまだある…」など、次第に部長の奇妙な独り言が増えて行く。
いよいよリハーサルが始まり、各バンドの実力と音楽性があらわになっていく。ハードロックからポップスまで、なんでもありのラインナップ。
共通しているのは、皆さん技術を持っておられたということ。余計に不安を煽られる。生唾と幽体離脱が、止まらない。
とうとうThe Flusのリハ時間が来た。演者の方々の視線が痛かった。同業者の前での演奏が一番緊張するのだ。
ドタバタした手つきでセッティングを始めた部長。基本的にフラットな音作りなので、セッティングはすぐ終わり、適当にフレーズを爪弾く。
するとPAから「ベースさん音下さーい!」とお声がかかる。プロっぽくて妙にテンションが上がる。
個々のセッティングが終わってから、数曲程全体で音出しをした。部長は意外と無難にこなす事が出来、本番に向けて一筋の光を見出した。

 

「緊張を上手くエネルギーにシフトできたよね」

 

リハも無事終え、残り僅かの自由時間、バンドは一杯引っ掛けに韓国街へと繰り出した。
リハを難なくこなしたことで、少しばかり気持ちに余裕が出てきた部長。
対照的に普段ミスらないところでミスってしまったおばりょう。遂に彼もおかしな状態になってきた。
しかし、ここまできたら演奏を楽しもうという結論に至り、中華飯店でドリンクしか頼まないという荒技を出した後、再び決戦の地へと引き返した。
17時、ぽつりぽつりとお客さんが入りだし、こちらもいよいよ臨戦態勢に。
リラックスするために最後に一本、世界一好きなビール・ハイネケンを飲むことにした。
メンバーの友人らと軽く談笑するが、先程の余裕は吹き飛び、心臓バクバクとなっていた。全く酔えない。
御友人の一人に綺麗な方がおられたので、ストレートに「綺麗ですね」と賛辞を送ってみたものの軽く引かれてしまった。そうですワシが悪いんです\(^o^)/
その後はジャーマネのebcや、よっちゃん、クレイジーY尾と談笑するも、やはりリラックス出来ない。
とりわけ部長は、クレイジーY尾の崩れた顔立ちに多大なるリラクゼーション効果を期待したが、全く無意味であった。
本番まであと10分と迫ったところで、部長はコンセントレーションを高めるために、一人楽屋へと入っていった。
衣装に着替え、無意味に屈伸と小ジャンプを繰り返し、「部長の技術は世界一ィィィィィィィィィィ!」と懸命に自己暗示をかける。
そこにケンペスが入ってきた。部長は「ジャッケトのボタンはとめた方がええじゃろうか?開けたほうがええじゃろうか?」とファッションチェックを求めた。
「開けたほうがいいぜ。オマ○コ野郎」という旨のアドバイスを頂いたので、部長はそれに従うことにした。
残り時間は僅か。円陣を組む為に、部長は残りのメンバーを呼ぶようにとケンペスに伝令を託した。

 

「ソウルサークルだよ。あれやろうと思って。知らない?チリペッパーズの」

 

今夜の主役達が楽屋に集結した。
男達は円陣を組んだ。
「ウィーアーフル〜ス!!!」
「オレ達は強い!!!!!」
覚悟を決めた男達は、SEに乗っかりフロアに躍り出た。
部長は、よっちゃんとクレイジーY尾とハイタッチを交わし、オーディエンスを掻き分け、ステージ立った。そしてベースを構えた。

 

「初めて知ったんだけど、クレイジーY尾の手に触れるとメダパニの効果があるみたいなんだ」

 

アンチェインのパワフルなドラムが鳴り響き、オープニングチューンの“FUCKIN' IN THE BUSHES”に突入。
ドラム、ギター、ベースと順に入っていくという何とも小憎い演出のインストナンバーだ。
本来ならば、演奏の途中からケンペスがふてぶてしく登場するというスペシャルな演出を用意していたのだが、本人たっての希望で中止とあいなった。
もっとも、極限の緊張の中、ライヴ初経験の彼にそのようなクサい演出を強いるのは酷だと思うし、彼の気持ちは十二分に理解できる。
それにしても部長である。唯でさえ秋の装いなのに、照明の暑さでのぼせ、血行は促進し、アルコールが体内を駆け巡る。
加えてクレイジーY尾によるメダパニ工作。部長はもう、正気ではなかった…。

 

「その夜は友人のデイビッドソンと飲みに行った帰りだったんだ。急に眩しい光に包まれたかと思ったら、ヤツらはオレの目の前にいたんだ。そしてヤツらはオレに向かってこう言ったんだ」

 

部長は何とか冷静さを保ちながらの演奏を試みるが、メインリフのフレーズを1回多く回すというミスを犯す。おばりょうが渋い表情でこちらを見る。
急遽、白玉フレーズを盛り込んだりして誤魔化しを図ったが、果たして誤魔化せていたであろうか。ライヴDVDの完成を待ちたい。
一曲目終了。この日は身内客が大勢観に来てくれていたので、こっちが勘違いしそうなほど大きな拍手が沸き起こる。
しかし、全員、そう、全員、ギター寄りに陣取っておられたので、「なんかワシの左側から歓声が聞こえてくるね」という感覚であった。

 

「宿命だ。母の反対を押し切ってまでこの地味楽器を選択したオレの宿命だ。」


はてさて、いきなり出鼻を挫かれる格好となった部長。続いては実質的一曲目である“ROCK'N' ROLL STAR”だ。
相変わらず暑い。楽屋に水を忘れてきたことを思い出す。そして本番前にギャッツビーフェイシャルペーパーで顔の脂をとる事も忘れていた。
チューニングが終われば合図を送るという事も忘れていた。ノイズが出るので曲間はエフェクターを切る事も忘れていた。
と言うかもう全ての事前申し合わせ事項が頭から吹き飛んでいた。
頭の中が真っ白になっていた部長は、一心不乱にダウンピッキングを愛機に叩き込む。反動でメガネもずれる。ビバ皮脂過剰分泌。
ガシガシやり過ぎたせいか、早くも腕が攣り始める。やばいやばい…。それでもバカな部長は更にガシガシと演奏する。
そして曲の終盤、4弦がナットから外れるという極めて斬新なアクシデントに見舞われた。アーーーッ!!!
ここで、狼狽する部長を見かねた、トレースエリオットのアンプの上で佇むもう一人の小っちゃい部長が語りかけてきた。

「よう旦那。今夜の旦那はビッグアンラッキーだ。でも旦那よ、まだ慌てるような時間帯じゃない。
いいかい旦那?死んだのは開放弦だけだ。押さえれば他の音はまだ出る。そして休譜で切れる一瞬の隙を突いて弦をはめるんだ。
なぁに、旦那ならやれるさ」

「Yes, I can.」

冷静且つ迅速に処置を施した部長。無事戦列復帰を果たし、演奏を終えた。
まさかの2曲連続のミス。部長は既に虫の息であった。
しかし、次は部長唯一にして最大の見せ場である“GO LET IT OUT”だ。
OASISの楽曲では珍しくベースがうねる曲である。
ギャンギャンにベースを歪ませ、クールでドライビンなフレーズで会場内の全女子をグッチョグッチョにしてやろうという狙いだ。
この曲も途中からベースが入るため、部長INの時を今か今かと待ちわびる。
遂に部長がピッキング動作に入った。食らえ女子ども!いつもゴミを見るかのような目で見やがって!これがワシです!
アーーーッ!!!音が出ない!これがワシか!何故神はワシにカッコつけさせてくれない!? ワシ\(^o^)/オワタ

 

「もう打ち上げ会場で切腹するしかないと思った」

 

前代未聞の3曲連続ミス。泣きっ面に蜂状態の部長。
ここで彼が演奏を放棄してステージを降りたとしても、もう誰も止められない状態だった。
しかし、ここで再びトレースエリオットのアンプの上で佇むもう一人の小っちゃい部長が語りかけてきた。

「旦那もう涙目だな!でも落ち着けよ、ブラジルではよくある事だ。
どうやら旦那はチューナーを入れたまま弾いちまったんだな。ペダルをもう一度踏むんだ。そうすれば音は出る。
おっと今焦って2連打したな。もう一度、落ち着いて踏むんだ。落ち着いてな」

「Yes, I Do.」

曲の途中から不自然に演奏に合流した部長。全てをブチ壊した気持ちで、申し訳なさで一杯だった。
しかし、曲の中盤からスリリングに盛り上がっていく様は、このライヴのハイライトの一つだったと言っても過言ではないだろう。

 

「でも認めるよ。この日のA級戦犯はオレだ」

 

以降の演奏は致命的なミスも無く、キッチリとまとめた部長。オーバーヒート寸前だった心臓も、程よい緊張感に落ち着き、演奏を楽しむ余裕も出ていた。
そして、ラストの“DON'T LOOK BACK IN ANGER”が終わった瞬間、部長は拳を握り締め両腕を突き上げた。
次の演者がステージに上がってきて、「かっこよかったです!」と握手を求められた時、自分もまだまだ捨てたもんじゃないなと、部長は思った。
楽屋に戻りホッとするや否や激しい疲労感に襲われた。
ワシはとうとうやっちまったんだな。 いろんな意味でやっちまったんだな。達成感と喪失感が同時に込み上げてきた。
結成1年未満。忙しい合間を縫って練習して、皆良くやったと思う。今のメンバーと出会えて本当に良かったと思う。
わざわざ観に来てくれたお客さんにも感謝したい。来れなくて影ながら応援していてくれた人達にも感謝したい。
THE FLUSはまたいつかどこかのライヴハウスにひょっこり現れるだろう。

その時は、どうぞよろしく。

THE FLUS / WONDERWALL
http://jp.youtube.com/watch?v=SshLIxNqrwE