多くのバンドがそうであるように、
INCUBUSというバンドもまた、一ジャンルのオリジネイターというわけでもないし、
爆発的な個性があるバンドでもない(だけど凄いバンド。だから不思議)。僕はそう思っている。
それ故に、”Make Yourself”からの、ブームから急に外れた方向転換は、
INCUBUS自身の立ち位置を不透明なものにしてしまった。
「ちょっと前まではヘヴィロックバンドだったけど、今はよくわからんなあ。誰か上手く説明出来ないか?」
1STアルバムの路線でいっておけば、どんなに楽だっただろうか。
アルバムを出す度に、”ヘヴィでファンキーで民族楽器なヤツラが帰ってきた!”
とでも書いておけば事足りていた筈だったのだ。
業界人達は困った。売れてるバンドなのに、良いコピーが思いつかない。
そして、こう言うしかなかった。
”ヘヴィロックからの脱却”
久保竜彦の心配事は杞憂に終り、世界は新世紀に突入。
そして、INCUBUSは傑作を携えて帰ってきた。
そこには、心に響く音とグルーヴと声が詰まっていた。
没個性を超越する凄さがあった。
”WISH YOU WERE HERE”や”ARE YOU IN ?”を聴けばわかる。
誰もこのバンドに、ヘヴィロックを期待・強要する権利なんて無いことが。
正直、脱却なんてどうでも良く思えてくる。
相変わらず伸びやかで自然体なブランドンのヴォーカル。
マイクのギターも毎度の事激しく歪んでいるが、あまり前に出ず、曲の一部として溶け込んでいる。
気迫のスクラッチを完封し、小技を効かせたプレイに専念しているDJキルモア。
技のデパート状態だったリズム隊も、手数を減らし、ひたすら大らかなグルーヴを産み出している。
全ての音が”シンプル”という一点に向かっているアルバムだ。
”ジャケット通り、海を連想させられる” 色んなレビュウサイトを観てきたが、こう感じる人が多い。
僕自身もそう感じる一人だ。それはDJキルモアの力によるところが大きい。
彼のターンテーブルプレイからは、穏やかな波や海鳥が行き交う様を感じることが出来る。
実にジャケットとマッチしたプレイを聴かせてくれる。
このアルバムのMVPはDJキルモアと言っても良いだろう。
本当にただ単純に素晴らしいアルバム。
前作と同様に、”Morning View”も200万枚越えの大ヒットを記録した。
”ヘヴィロックからの脱却”という迷フレーズの粘着とともに、
INCUBUSはバンドとしてのキャリアの一つの頂点を見ることになる。