2004年初春、ベーシストが鬼テク・アレックスからTHE ROOTSのベン氏へと交代し、
新生INCUBUSは新作”a crow left of the murder...”をリリース。
そして、冒頭で触れたジャケ帯フレーズも一緒に付いてきた。
某外資系レコード店のリコメントも「ヘヴィロック離れが云々・・・」というものだった。
「また脱却かよ!」と三村のツッコミが聞こえてきそうだ。
今作は、やりたい放題でラフでダイナミズム溢れるアルバムだ。
”ブランドンの声”を大前提として作った前2作には、プレイにもそれなりの制約を設けていたいたようで、
言われてみると、特に前作の、その整合感はどこか行儀が良いと言うか、大人しくさえ感じる。
そんなやり方をいささか窮屈に感じていたメンバー達は、今回は制約などを一切設けず、
各人がやりたいようにやるというスタンスでアルバム製作に臨んだそうだ。
同じやりたい放題でも、1stアルバムが勢いと力みから生まれたことに対し、
これは自由な意思・発想と経験に裏付けされた技術から生まれたアルバム。力よりも技。
脳髄に染み渡る音。表情豊かなメロディ。そして変態的なセンス。それら全てから自由の香りが漂ってくる。
自由がヒシヒシと伝わってくるこのアルバムからは、「こういうのを作ろう!」と思って作ったというよりも、
「ジャムってたら、こんなん出ましたけど。」みたいな印象を強く受ける。バンドが出す音がどこまでも自然体なのだ。
極めて高いレヴェルの自由奔放さと実験性。ヘヴィロックどころか、ジャンルからの脱却。
INCUBUSは、またしても説明し難い力作を作り上げてしまったのだった。
”Make Yourself”と”Morning View”で散々言われた、”ヘヴィロックからの脱却”
バンド自身も、前2作でヘヴィロックがどうのこうのという事とは関係の無いバンドだということを証明した。
それでもメディアは、新作のあからさまなタイトルを利用してまで、
INCUBUSの新作を”ヘヴィロックからの脱却”と例えた。
新作のタイトルについて、ブランドンはこう語っている。
「INCUBUSって昔から仲間外れにされてきたバンドだから。
最初の頃は、僕達も仲間にしてくれよって頑張ってきたけど、
あまりにも他のバンドに疎外され続けちゃったんで、そういう状態に慣れちゃったんで、
逆にそっちのほうが心地良くなったんだ。タイトルはバンドのそういうスタンスを象徴しているんだ。」
本来、INCUBUSが持っている多種多様な音楽性では、
様式美化したヘヴィロックに馴染むことは出来なかったのだ。
そういう事実を受け止め、将来のヴィジョンも含め、ヘヴィロックからのシフトチェンジを敢行し、
普遍的な歌と音を求めて行った。”Make Yourself”の項で言う所の、「水」を目指して行ったわけである。
そして、それは今のところ大成功である。
メディア側のタイトルの解釈と、ブランドンが語るタイトルの真意は、概ねイコールで結ぶことができる。
しかし、決定的な違いは、メディア側が、さも脱却現在進行形であるかのような言い方に対し、
INCUBUS側は、豊潤なロックアルバムを叩きつけることによって、今度こそ黙らせようとしていることだ。
「”Morning View”聴いてわかんないなら、これ聴いて理解しろよ。」みたいな。
そして、インタビューで語っていたような、長年抱きつづけてきたであろうと思われるその心境を、
”a crow left of the murder”という言葉で表してみせたのだ。
遂にバンド側から発せられた、正式な終結宣言。自由でもって前2作以上にそれを体現した新作。
このアルバムが出てしまった今、
元々虫の息だった”ヘヴィロックからの脱却”というフレーズは、完全にその効力を失ったのだ。
そして、INCUBUSはここからジャンルを超えた戦いを挑んでいく。